2022年5月20日金曜日

00-市民革命―まえがき、目次

三一書房617

市民革命

小林良彰著



まえがき

この本の目的は、世界各国の市民革命(ブルジョア革命)の時期をはっきりとしめすことである。また、イギリスのように、市民革命の時期が、常識としてみとめられているところでは、なぜそれが市民革命であるかという根拠をしめした。

世界各国の市民革命のことについて書かれた本は無数にある。それにもかかわらず、あえて私がこの本を書いたのは、市民革命にかんするいままでの学説が、ほとんど皆誤りをふくんでいたと思ったからだ。私は、その誤りを訂正し、正しい歴史解釈をあきらかにしたい。たとえば、ドイツの市民革命の時期はどこにあるかと問おう。これにたいする私の解答は、三月革命からドイツ統一戦争だということになる。ところが、いままでそう断言した人はいなかった。

それだけでも、この本のもつ意義がある。あるいはまた、中国の市民革命の時期はいつかと聞こう。毛沢東は、国民革命でもまだそれが完成していないという。この本は、国民革命が中国の市民革命だと説明している。

このようなくいちがいは、一事が万事だ。

私は、去年『明治維新の考え方』(三一新書)を書いた。ここで、明治維新が、日本の市民革命であることを証明した。しかし、それを主張すると、かならず、次の質問がまちかまえる。

「ではドイツはどうか」「イタリアはどうか」等々。そのため、明治維新についていえば、つぎに世界各国についていわねばならないことを知っていた。ドイツ、中国その他について、はっきりした考え方をもち、その考え方が、明治維新の解釈と首尾一貫していなければ、せっかく、明治維新について新しい解釈をもちこんでも、学問体系としては完結しない。その意味で、この本は前掲書の姉妹篇だ。比較、対照して、熟考されることをのぞむ。

なお、市民革命についての議論は、つねに、「典型的市民革命」とよばれるフランス革命に回帰する。ゆえに、フランス革命にたいする正確な理解がなによりも大切で、ここでのわずかな狂いが、他国の解釈のなかでは、何倍にも拡大される。そのような実例も、数多くしめしてあるが、それだけに、私は、フランス革命にたいする正確な結論をひきだすべく、『フランス革命経済史研究』(ミネルヴァ書房)を書いた。その中で、フランス革命の成果として、いままで強調され、したがって、市民革命の基本法則だとされてきたことが、すべて事実無根であることを証明した。そのうえにたって、フランス革命の成果は、まったく別のものであり、それは権力と国家財政の実権をめぐる問題であることをしめした。この見方が、世界各国の市民革命を考えるときの、基本線になっているので、疑問を感じた人はそれを参照されたい。



目次


まえがき


1 中国の市民革命


はじめに

基本理論

政治史のまとめ

辛亥革命の敵対者

軍閥の本質

軍閥と商人

軍閥の悪政

国民革命軍の背影

国民政府の支柱

政策の変化

四大財閥の成長

外国資本と買弁ブルジョア

民族ブルジョアとは

親日派ブルジョアとは

地主制のうつりかわり

ブルジョア革命の時点


2 毛沢東の歴史理論のまちがい


ブルジョア革命と民主主義

基本任務の思いちがい

錯覚が錯覚をうむ

過渡期と目標の混同


3 市民革命の各国史


ロシアの絶対主義

ロシアの市民革命

絶対主義下のオランダ

市民革命としてのオランダ独立戦争

イギリス革命をめぐる問題点

イギリス革命はなぜ市民革命か

アメリカの革命をめぐる問題点

封建制度としての植民地アメリカ

市民革命としてのアメリカ独立戦争

南北戦争の解釈

インドの市民革命

国民会議派の本質

エジプトの市民革命


4 ドイツ三月革命の再評価


はじめに

ドイツ史のまとめ

貴族とユンカー

自由都市のブルジョアジー

貴族対ブルジョアジー

進歩に敵対した貴族支配

貴族の反主流とブルジョア的改革運動

改革運動の失敗から革命へ

三月革命の政治的成果

三月革命の経済的成果

絶対主義へもどったオーストリア

手工業者とブルジョアジーの対立

プロシアの反革命

プロシアに絶対主義はもどったか

パン屋とくつ屋の王冠

オーストリアとプロシアの対立

プロシアの反動

ブルジョア的少数派の抵抗

クリミア戦争-ドイツ保守勢力の分裂

反動の過大評価を改める


5 市民革命としてのドイツ統一戦争


自由主義のいきづまり

ビスマルクの登場

ビスマルクはユンカーの代表者ではない

ビスルクのマキュベリズム

決死の鉄血宰相

貴族の一部とビスマルク

ビスマルクと大銀行家

クルップとビスマルク

自由主義的ブルジョアとビスマルク

ジーメンスとビスマルク

ビスマルク権力の背影

ビスマルクの勝利

北ドイツの統一

ドイツ統一の完成

ブルジョア革命の完成

与野党の逆転

進歩的改革

貴族・ユンカーの没落

財政政策の変化

ブルジョア的貴族のキャスティング・ヴォート


6 ドイツ史にたいする誤解


ドイツと日本

マルクスの誤解

エンゲルスのあいまいさ

エンゲルスの小細工

ボナパルティズム論の誤り

レーニンの誤解

カイゼルは去ったが将軍はのこった


7 のこされた問題点


推定可能なこと

局地的市民革命

フィレンツェとダンテ

ミケランジェロとマキァベリ

民主主義アテネ

特殊性について

封建制度と古代のちがい

未解決の問題


主な参考文献


 

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