市民革命
小林良彰著
まえがき
この本の目的は、世界各国の市民革命(ブルジョア革命)の時期をはっきりとしめすことである。また、イギリスのように、市民革命の時期が、常識としてみとめられているところでは、なぜそれが市民革命であるかという根拠をしめした。
世界各国の市民革命のことについて書かれた本は無数にある。それにもかかわらず、あえて私がこの本を書いたのは、市民革命にかんするいままでの学説が、ほとんど皆誤りをふくんでいたと思ったからだ。私は、その誤りを訂正し、正しい歴史解釈をあきらかにしたい。たとえば、ドイツの市民革命の時期はどこにあるかと問おう。これにたいする私の解答は、三月革命からドイツ統一戦争だということになる。ところが、いままでそう断言した人はいなかった。
それだけでも、この本のもつ意義がある。あるいはまた、中国の市民革命の時期はいつかと聞こう。毛沢東は、国民革命でもまだそれが完成していないという。この本は、国民革命が中国の市民革命だと説明している。
このようなくいちがいは、一事が万事だ。
私は、去年『明治維新の考え方』(三一新書)を書いた。ここで、明治維新が、日本の市民革命であることを証明した。しかし、それを主張すると、かならず、次の質問がまちかまえる。
「ではドイツはどうか」「イタリアはどうか」等々。そのため、明治維新についていえば、つぎに世界各国についていわねばならないことを知っていた。ドイツ、中国その他について、はっきりした考え方をもち、その考え方が、明治維新の解釈と首尾一貫していなければ、せっかく、明治維新について新しい解釈をもちこんでも、学問体系としては完結しない。その意味で、この本は前掲書の姉妹篇だ。比較、対照して、熟考されることをのぞむ。
なお、市民革命についての議論は、つねに、「典型的市民革命」とよばれるフランス革命に回帰する。ゆえに、フランス革命にたいする正確な理解がなによりも大切で、ここでのわずかな狂いが、他国の解釈のなかでは、何倍にも拡大される。そのような実例も、数多くしめしてあるが、それだけに、私は、フランス革命にたいする正確な結論をひきだすべく、『フランス革命経済史研究』(ミネルヴァ書房)を書いた。その中で、フランス革命の成果として、いままで強調され、したがって、市民革命の基本法則だとされてきたことが、すべて事実無根であることを証明した。そのうえにたって、フランス革命の成果は、まったく別のものであり、それは権力と国家財政の実権をめぐる問題であることをしめした。この見方が、世界各国の市民革命を考えるときの、基本線になっているので、疑問を感じた人はそれを参照されたい。
目次
まえがき
1 中国の市民革命
はじめに
基本理論
政治史のまとめ
辛亥革命の敵対者
軍閥の本質
軍閥と商人
軍閥の悪政
国民革命軍の背影
国民政府の支柱
政策の変化
四大財閥の成長
外国資本と買弁ブルジョア
民族ブルジョアとは
親日派ブルジョアとは
地主制のうつりかわり
ブルジョア革命の時点
2 毛沢東の歴史理論のまちがい
ブルジョア革命と民主主義
基本任務の思いちがい
錯覚が錯覚をうむ
過渡期と目標の混同
3 市民革命の各国史
ロシアの絶対主義
ロシアの市民革命
絶対主義下のオランダ
市民革命としてのオランダ独立戦争
イギリス革命をめぐる問題点
イギリス革命はなぜ市民革命か
アメリカの革命をめぐる問題点
封建制度としての植民地アメリカ
市民革命としてのアメリカ独立戦争
南北戦争の解釈
インドの市民革命
国民会議派の本質
エジプトの市民革命
4 ドイツ三月革命の再評価
はじめに
ドイツ史のまとめ
貴族とユンカー
自由都市のブルジョアジー
貴族対ブルジョアジー
進歩に敵対した貴族支配
貴族の反主流とブルジョア的改革運動
改革運動の失敗から革命へ
三月革命の政治的成果
三月革命の経済的成果
絶対主義へもどったオーストリア
手工業者とブルジョアジーの対立
プロシアの反革命
プロシアに絶対主義はもどったか
パン屋とくつ屋の王冠
オーストリアとプロシアの対立
プロシアの反動
ブルジョア的少数派の抵抗
クリミア戦争-ドイツ保守勢力の分裂
反動の過大評価を改める
5 市民革命としてのドイツ統一戦争
自由主義のいきづまり
ビスマルクの登場
ビスマルクはユンカーの代表者ではない
ビスルクのマキュベリズム
決死の鉄血宰相
貴族の一部とビスマルク
ビスマルクと大銀行家
クルップとビスマルク
自由主義的ブルジョアとビスマルク
ジーメンスとビスマルク
ビスマルク権力の背影
ビスマルクの勝利
北ドイツの統一
ドイツ統一の完成
ブルジョア革命の完成
与野党の逆転
進歩的改革
貴族・ユンカーの没落
財政政策の変化
ブルジョア的貴族のキャスティング・ヴォート
6 ドイツ史にたいする誤解
ドイツと日本
マルクスの誤解
エンゲルスのあいまいさ
エンゲルスの小細工
ボナパルティズム論の誤り
レーニンの誤解
カイゼルは去ったが将軍はのこった
7 のこされた問題点
推定可能なこと
局地的市民革命
フィレンツェとダンテ
ミケランジェロとマキァベリ
民主主義アテネ
特殊性について
封建制度と古代のちがい
未解決の問題
主な参考文献
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